人身傷害保険と損益相殺

人身傷害保険を受け取ったら賠償金から差し引かれる?

事故による賠償金は相手(加害者)の任意保険から支払いを受けますが、多くは自分自身の保険にも人身傷害保険というものがついており、そちらから保険金として支払いを受けることもできます。

この人身傷害保険は、独自の約款によって損害を算定するので、加害者に請求可能な損害とは一致しません。通常、加害者への裁判で算定されるような損害の一部を人身傷害保険での損害と扱っており(一部保険)、したがって、加害者から賠償金を受け取れるならば、本来、自分の人身傷害保険は利用する必要がない、といえます。人身傷害保険を使っても、その分自分の保険会社が加害者に対する損害賠償請求権を取得するだけで(代位)、裏を返せば、人身傷害保険金は加害者との関係で損益相殺がなされる、つまり、受け取った保険金の分だけ加害者から受けられる賠償金が減額されるということになります。

過失相殺がされる事案ではどうか?

このように、本来、自分の人身傷害保険を使って保険金を受け取っても、その分について人身傷害保険会社の代位が生じ、加害者から受けられる賠償金が損益相殺によって減額されるというのが原則です。

しかし、人身傷害保険の性質は、保険契約者の過失の有無に関わらず損害を補てんする性質があります。したがって、過失相殺が行われる場合には、人身傷害保険金を受け取っても、それをまず過失相殺によって相手(加害者)から受けることができない部分に充当して残りを加害者に請求したい、というのが合理的な被害者側の心理です。つまり、受け取った人身傷害保険金の全額ではなく、過失相殺によって相手(加害者)から受けることができない部分を超過する額についてだけ、代位が生じ、損益相殺が行われるとすれば、人身傷害保険の機能は全うされ、被害者の補償も充実します。

具体例をもとに検討

【事例A】損害100万、過失割合50%で加害者には50万請求可能なとき、55万の人身傷害保険金を受け取った場合

この場合に5万円だけ損益相殺され、残り45万円を損害賠償金として加害者から受け取ることができる、という考えは成り立つでしょうか。結論は、原則として50万円の全額について代位が生じるので、同額について損益相殺が行われ、相手(加害者)に対する請求ができなくなります。そのように約款で定められているからです。
しかし、「原則」であり、例外があります。約款をよく読むと、基本的に人身傷害の約款で決められた「損害」を損害として扱うものの、裁判手続を経た場合、つまり、裁判上の和解や判決の場合には、裁判所が認めた金額を「損害」と読み替える、という内容の規定がなされているのではないでしょうか。この場合、いわゆる裁判基準差額説に基づき、代位が生じて損益相殺が行われるのは5万円で、残りの45万円を加害者に対して請求する、という余地はあります。ただし、手続として訴訟を取らなければなりません。

弁護士費用特約との組み合わせが効果的

このように、比較的大きな過失相殺が行われる事案において、過失の有無に関わらず補償を行うという人身傷害保険の趣旨を全うするためには、「損害」に関しての約款の読み替えを生じさせる訴訟手続が必要になってきます。一般的に、訴訟手続を取るというのは少なくないハードルとなりますが、弁護士費用特約が付帯されていた場合には状況は変わります。

この場合、特約を使えば訴訟に対する費用負担を考慮する必要がなくなるため、そのような手続に対するハードルが下がります。したがって、過失相殺が行われ、なおかつ自分の保険に人身傷害保険と弁護士費用特約が付いている場合には、訴訟手続を通じて相手の任意保険と自分の人身傷害保険を合わせて相当な補償を受けられないか、検討することが望ましいと思われます。

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