高次脳機能障害と後遺障害等級認定

高次脳機能障害とは

高次脳機能とは、脳が情報を得てから行動に至るまでの全ての過程をいい、具体的には、認識、記憶、学習、判断といった脳の働きを意味します。ここでは、交通事故による頭部外傷によって脳が物理的な衝撃を受け、これらの高次脳機能に障害を生じた事案を扱います。
もともと、脳の物理的な損傷が画像上明らかな場合には、それによって脳の機能に障害が生じたことを医学的に証明することができました。しかし、実際には、必ずしもそのような損傷が明らかとはいえない「びまん性軸索損傷」によって障害が生じることから近年注目を集めるようになりました。

びまん性軸索損傷

脳は頭蓋骨の中に浮かんでいるような状態で存在しています。したがって、頭部に激しい衝撃が加わった場合、回転性の運動によって脳が頭蓋骨にぶつかることで脳が傷害を受けてその神経組織に断線が生じることがあります。買い物の帰り、お豆腐が入った袋をうっかり手放してそれが塀にぶつかり、中のお豆腐に損傷が生じるイメージです。
脳震盪も同じような機序で生じる症状ですが、その決定的な違いは程度で、数時間以上の重篤な意識喪失を伴うものがびまん性軸索損傷とされています。急性期の意識喪失と、慢性期には損傷を受けた軸索の清掃と除去に伴う脳室の拡大が生じることが特徴的とされ、最終的に高次脳機能に影響をもたらします。

自賠責による高次脳機能障害の等級認定

自賠責の後遺障害認定は、損害保険料算出機構によって行われますが、その認定の困難性から、専門部会である審査会によって審査が行われています。具体的には、①事故によって頭部外傷を生じ、それによる意識喪失がある事案、②経過診断書や後遺障害診断書に「脳挫傷」、「びまん性軸索損傷」、「高次脳機能障害」の記載がある事案、③頭部画像上脳の損傷が明らかで、脳室の拡大や萎縮などが見られる事案、④その他、高次脳機能障害が疑われる事案において審査会に付議されます。

高次脳機能障害の判断基準

びまん性軸索損傷によって高次脳機能障害が生じたとすると、そのような損傷があったかどうかが高次脳機能傷害の判断において重要な要素とされます。具体的には、Ⅰ急性期における意識喪失の有無及びその程度、そして、Ⅱ経過の画像診断において軸索の損傷に伴う脳室の拡大や脳萎縮が認められたかどうかの点です。
高次脳機能障害自体は、脳の障害であり、どうしても具体的な障害としては主観的な部分の評価が避けられない面があります。そのため、大きな前提としてそのような症状が発生する機序としての脳損傷を裏付けるべき、客観的事情は非常に重要な要素であるとされます。もっともこのような判断基準の問題点は、MTBIという軽度頭部外傷によって高次脳機能障害が生じうる事案が見落とされていることです(これは別の記事で述べます。)。

高次脳機能障害の後遺障害診断書の作成時期

高次脳機能障害は高度の脳機能の障害であるため、日常生活の影響の程度を見極めて診断がされることが望ましいものの、高齢者と若年者については注意が必要です。

高齢者の場合

高齢者の場合、事故による日常生活の変化(治療による入院生活など)が認知症の進行に影響を与えることが良くあります。したがって、あまりに時間を置きすぎると、それが頭部外傷による高次脳機能障害によって生じたものなのか、それとも認知症の進行によって生じたものなのかが区別できなくなることがあります。したがって、高齢者の場合には遅くなり過ぎないように後遺障害診断を得ることが適切な場面が考えられます。

若年者の場合

これに対して若年者の場合、まだ脳が大人と比べて十分に成長しきっておらず、その発展段階にあります。したがって、事故後すぐには明らかな変化や他の子供たちとの違いが現れないものの、成長するにつれて高次脳機能の障害に起因すると思われる症状が顕出することがあります。このように、若年者の場合にはすぐに後遺障害診断を得ることなく、一定期間を経てそれを行うことが適切な場面が考えられます。

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