歯牙障害と逸失利益

歯牙障害は逸失利益が争われやすい

後遺障害の等級認定が認められた場合、基本的に後遺障害慰謝料に加えて、後遺障害逸失利益が補償に加算されます。これは、後遺障害が残存したことによって労働能力に低下が生じたことに起因する損害です。
しかし、後遺障害はあるものの、それが労働能力の低下や喪失に直ちに結びつかない事案においては、逸失利益が争点になります。よくある例は、醜状障害や歯牙障害ですがここでは後者を扱います。

なぜ歯牙障害で労働能力喪失が争われるのか?

歯牙障害は、傷害部位が顔となる事案で生じますから、事故としては重大であり、多大な精神的苦痛を伴う事故態様と言えます。むち打ちで他覚所見はない、という事案で後遺障害が残って一定の逸失利益が認められる事案と比較しても決して軽微ではありません。したがって、充実した補償がなされてしかるべきと考えられます。
しかし、歯牙障害の場合、インプラントによって構音機能、咀嚼機能、外見上の正常さを取り戻すため、労働能力の喪失がないから逸失利益もない、との反論に晒される傾向があります。それが歯牙障害で労働能力の低下が争われる原因ですが、事故で歯牙を失った被害者からすれば本当に心を傷つけられる主張です。

裁判例の傾向

残念なことに、現在の裁判例の大まかな傾向としては、歯牙障害に対して後遺障害逸失利益を認めることは消極的です。もっとも、その代りに、後遺障害慰謝料を増額することで補償上の相当性を確保しようとする傾向が見られます。
取り扱いが確定したものではなく、裁判例の中には逸失利益を認めることに、積極と消極の両論があります。個別具体的に、職業の内容なども考慮しつつ検討すべきではないかとの有力な論説もありますが、実務上はやはり消極的傾向が感じられます。

逸失利益が否定されても後遺障害慰謝料の増額が認められる

このように、歯牙障害で後遺障害逸失利益が認められるかどうかについては、実務上消極的に考える見解が強い状況にあると言えます。
もっとも、その分、後遺障害慰謝料を増額すべきとの見解が通説であり、逸失利益を否定した場合には、慰謝料を増額する取り扱いが通常です。事案によっては、そもそも、被害者の側で逸失利益までは請求せず、慰謝料を増額すべきと構成する例も見られます。

少しでも違和感があれば慰謝料増額で妥協せず、逸失利益の主張をすべき

後遺障害逸失利益が認められにくい他方、慰謝料の増額の傾向はみられる、このような傾向を踏まえて、歯牙障害の被害をこうむった被害者としてどのように対応すべきかが問題となります。
逸失利益を否定しても、その分慰謝料を増額するという論理は、後遺障害の残存に対する配慮と考えられそうですが、重要なのは、逸失利益が認められた場合と、そうではないが慰謝料が増額された場合とで、どちらが補償上充実しているかです。やはり、逸失利益を否定して後遺障害慰謝料を増額する取り扱いは、逸失利益が認められた場合に比べて少ない補償になると思われます。
被害者としてもし歯牙障害による生活上の支障を違和感として感じているのなら、やはり慰謝料で妥協せず、あくまで逸失利益の主張をしていくべきではないかと思われます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。