弁護士費用特約と訴訟で回収した弁護士費用の調整

特約があっても加害者に請求可能

弁護士費用の特約は、交通事故の被害者が自分自身の弁護士費用の損害を補てんするための保険です。これは契約者が支払った保険料の対価としての性質があるので、この特約で弁護士費用の支払いがなくとも、加害者には訴訟で弁護士費用(裁判所が認めるのは賠償認容額の1割相当です。)を請求可能です(裁判例として東京地裁平成24年1月27日判決)。
具体例:加害者に治療費や慰謝料の損害100万円と合わせて弁護士費用相当の損害賠償を請求した場合、裁判所は損害の1割を弁護士費用として認めて110万円を認容します。

受け取った弁護士費用はもらえる?

このように保険料の対価としての側面があって、加害者に対して請求可能なのですから、受け取った弁護士費用相当額の損害(上記具体例では10万円)もそのままもらえそうなイメージがあります。
実際、弁護士の心情としても、相手から回収した弁護士費用ごと全額(上記具体例では110万円)を依頼者の方に渡してあげて、自分自身が受け取る弁護士費用は被害者の方が加入している保険会社から支払いを受けたいと思うものです。
しかし、実際はそうはいかないというのが実務上の扱いです。

弁護士費用と明示して受領したお金は精算する(保険会社に戻す)必要がある

弁護士費用特約を使って弁護士に依頼して裁判を起こし、加害者から弁護士費用として一定額を回収した場合の取り扱いについては次の裁判例が参考になります。
東京高裁平成25年12月25日判決(自保ジャーナル1934号162頁)は、弁護士費用特約は「被保険者において、賠償義務者から弁護士費用相当額の損害賠償金の支払を受けることができず、弁護士報酬額の自己負担を生じる場合のリスクを対象とするものであり、保険料はこのような保険の対価として定められるのであって、上記自己負担の範囲を超える保険金の支払を要するものでない」と判示し、弁護士費用特約の請求は被害者(被保険者)の弁護士費用の自己負担額にとどまるとしました。
約款上も加害者から回収した弁護士費用+保険会社から受け取った弁護士費用が、弁護士に対して実際に支払った額を超える場合は返還する旨の定めが置かれていると思われます(実際には保険会社から弁護士に対して直接支払われることが多いので話がややこしくなるのですが。)。いずれにせよ、弁護士費用として回収した額は未払分の弁護士費用と精算するか、超過部分は保険会社に返還すべきであり、それをせず被害者(依頼者)の方に対してそのまま渡すことはできないということになります。
なお、上記東京高裁の判決に対する上告は不受理となっています。

具体的には?

例えば、100万円の損害賠償請求に弁護士費用相当額を加えた訴訟をして、裁判所が弁護士費用として1割を加算した110万円を認めたとします。訴訟を担当したA弁護士と依頼者(被害者)Bとの間では報酬を現実回収額の10%とする委任契約となっていたとしましょう(ケース1)。なお、着手金や実費についてはすでに依頼者の方が加入する保険会社Cから弁護士費用特約によりA弁護士に直接支払い済みとします。
この裁判で、110万円を回収したので、弁護士報酬は11万円(※うち10万円は後述のとおり精算対象のため、100万円を現実回収額と見る考えも成り立ちますが、これは割愛します。)です。もっとも、10万円はすでに加害者から回収していますので精算対象となり、A弁護士は残り1万円だけを保険会社Cに請求できます。したがって、A弁護士が依頼者Bにお渡しするお金は100万円です。
これに対し、委任契約がタイムチャージになっているなど、A弁護士が既に保険会社Cに請求する報酬がない場合(ケース2)には、A弁護士(又は依頼人B)から10万円を保険会社Cに戻し、100万円のみ依頼人Bの手元に残す流れとなります。

精算せずに弁護士費用相当をもらう方法は?

そうはいっても、加害者から回収できたお金はできるだけ手元に残したいもの。弁護士費用も含めて手元に残すことはできるのでしょうか?
この点はご加入の弁護士特約を扱う保険会社に確認した上での対応となりますが、今のところ、各保険会社が精算や返還を求めるのは、被害者の方が加害者から「弁護士費用」と明示した金額を受け取った場合です。
実際には訴訟外でそういった金員を受け取ることはあまりなく(訴外交渉は弁護士費用や遅延損害金を含めない扱い)、訴訟においても費目を明示せず、弁護士費用や遅延損害金を加味しつつも調整金などとして最終的に「解決金」として~円を受領するという扱いにすることが大多数です。
このように弁護士費用が明示されていない場合には、弁護士費用特約を扱う保険会社としては精算や返還を求めない扱いもあります(後々トラブルにならないように、予め保険会社と調整しておくことが望ましいでしょう。)。その場合、結果的に弁護士費用を戻さずに済んだと評価できます。

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